城下トンネル‐霊界へ続くハイウェイ

2020/01/01

群馬県赤城山のふもと、国道122号線沿いには、かつて多くの人々が心霊体験や目撃をした伝説の心霊スポットが存在する――。

黒保根村、真冬の心霊騒動

1984年12月、真冬の群馬県桐生市黒保根町(旧黒保根村)にて心霊騒動が起きた。
7日午後7時過ぎ、当時の村長、田沼新平氏は同村の国道122号線を車で走行中、幽霊らしき人影を目撃したのだ。
これを発端に、「実は私もあそこで…」と証言する村民が続出。とうとう村会議にて霊の供養が真剣に討議されるという前代未聞の事態に発展してしまう。

この事件は1985年2月2日、地元紙でも報じられた。

白下_005(当時の新聞記事)

城下(しろおり)トンネルから約150m東村寄りの山中。12月7日午後7時すぎ、村内の会議に出席する途中の田沼村長がマイカーを運転して差しかかったところ、道路右側から黒っぽいタイツ姿の人影が飛び出し、目の前を大股で浮くように走り抜けたという。
あわてて車を止め車外に出てみたが、道路左側には暗闇の中に高さ約2mの石垣があるだけ。胴から上は見えなかったものの、大きく振る手がはっきり見えたと言い「人間ならば車でひいてしまったはず。やっぱり幽霊だったのか…」と今でも信じてやまない。(原文ママ)

その他に7・8人の村民が現場で人影を目撃。中には車を運転中、窓を締めきっているにもかかわらず、どこからともなく「オーイ」と呼びかけられたというケースも。

この騒動以前には、交通事故が相次ぎ何人もの死者がでていたそうだ。(記事には1975年~85年の間に6人の交通事故による死者が出たとある)
1985年1月21日、議員が寄付金を出し合い、幽霊の供養塔が建てられた。その後、怪異の目撃はなくなり、死亡事故も無くなったというのだが。


恐怖のアンビリバボー「霊界に続くハイウェイ」

白下_テレビ欄1(1999年6月24日テレビ欄)

1999年6月24日、フジテレビの人気番組「奇跡体験アンビリーバボー」によって黒保根村の心霊騒動は取り上げられ、同事件は15年も経過して再び注目されることになる。

番組冒頭のナレーション――。

「道、人はさまざまな喜びや悲しみを胸に秘め道を行き交う、しかし、もしその喜びや悲しみを残したまま、その路上で悲惨な事故に遭い、無念の死をとげたなら、その道は霊界へ続くハイウェイと変わるのである…。」

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anb3YOUTUBEよりキャプ)

番組名:奇跡体験アンビリバボー(恐怖のアンビリバボー 霊界へ続くハイウェイ)
放送局:フジテレビ
放送日:1999年6月24日

この回では、前半をイギリスのブルーベルハイウェイで起きた心霊事件(今回の記事とは関係ない為に割愛)、後半は日本でも同様のケースが起きたとして、黒保根村の心霊騒動を紹介。新聞記事で記されている、村内在住のOLが体験した事例を再現ドラマ化していた。私は当時小学生、今でも記憶に強く残るトラウマであった。

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anb6YOUTUBEよりキャプ)

1984年12月24日午後9時過ぎ、村内在住のA子さんは自家用車で帰宅途中、群馬県の城下トンネル内で道路を横断してきた女性を轢いてしまう。慌てて外を飛び出し確認してみるものの、誰もいない。運転席に戻るや、血まみれの女性が突如現れこう言われる「かえして…かえして…」と。

こうして大手メディアによって拡散された結果、「城下トンネル」は県内でも有数の心霊スポットとなるのだ。


放送から18年、浮かび上がる疑問

A子さんの心霊体験はあくまでイメージ映像であり、本当は少し違う。
映像では城下トンネルを走行しているが、実際の記事にはそんなこと一切書かれていない。

村外に通勤するA子さん(24歳)は、暮れの24日午後9時ごろ、帰宅途中現場を通りかかったところ、車の前を緑色の服を着た人影がよぎった。長い髪を両耳にはさみ、車の左わきにうずくまったという。
A子さんも車を降りたが姿はなかった。「あの幽霊か」と気づいたとたん、ショックで腰が抜けてしまったという。A子さんはその後、付近を通る際、必ず念仏を唱えている。(原文ママ)

このように、A子さんは人影に追突していなければ、血まみれの女性も出てこない。
再現映像が事実と違うことに関して特に責めるつもりはない。視聴者を楽しませる工夫として致し方ないことはわかっている。番組内で記事の新聞社名と日付を伏せたのはその為だったのであろう。

日時が不明の場合、過去の新聞をしらみつぶしに閲覧していくしかない。再三図書館に通い問題の記事を入手できたが、何度読み返してみても、どうも怪異の現場がハッキリしない。数々の目撃談は村長が見た地点と同じなのだろうか。
さらに番組終盤、当時村会議員であった松島富雄氏はアンビリバボーの取材に対しこう語っている。

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やっぱりお化けを見た人ってのが、10人20人じゃなかったということなんだね。
(中略)
あそこは昔の首切り場だった。
自分自身の解釈だけども、そうゆうことにあって、えーいずれにしても、供養してほしいと俺はそう解釈したんだよね。

他にも、松島さんは城下トンネルで謎の声を聞いているらしい。

ややこしいが、かつてトンネル上部に処刑場跡があったと証言はしている。しかし村長が目撃したのはトンネルから150mはなれた地点。
つまり、怪奇現象が起きたのは城下トンネル内だけとは断言できない。正確に申せば“城下トンネルを中心とした一帯で異変が起きている”というのが正しいだろう。

処刑場があったことを裏付ける資料は発見できなかったが、近くに「深沢城跡」はある。
また、「足尾銅山からの脱走者が力尽きて倒れる場所」やら「カスリーン台風の被害者が流れ着いた」なんて話まで。長くなるので詳しくは以下のサイトをご覧いただければと思う。

【関連】
・関東心霊スポット大図鑑様(足尾銅山等の記述)
・巡霊者様(カスリーン台風と深沢城等の記述)
・にっぽん旅行記様(トンネル上部にて水害の慰霊碑の発見)
・国土交通省 関東地方整備局(関東におけるカスリーン台風被害のリスト)
・国土交通省 利根川水系砂防事務所(赤城山における被災写真等を閲覧できる)

※カスリーン台風
昭和22年9月、関東に豪雨をもたらした台風。山地の破壊に伴う土石流の発生や河川の氾濫により甚大な被害に見舞われた。
群馬県においては、死者592人・行方不明者107人。これは関東圏で最も多い数字だ。その多くが土砂災害により亡くなっている。

…「多発した死亡事故」「足尾銅山からの脱走者」「カスリーン台風の被害者」「処刑された武士」。

過去に大勢の死者がでているのは間違いない。幽霊というものが、この世に未練を残した死者だとするなら、成仏できずさまよっているのか。
とくかく心霊スポットとしてのイワレは十分だ。大いに期待できる。

群馬県の心霊スポットでよく見受けられるのは「武尊神社」や「薗原ダム」ばかりで疑問だった。
この『城下トンネル』こそがあらゆる人の目撃証言がある正真正銘の心霊スポットだ。
カスリーン台風の被害から今年は70周年、なんというか呼ばれている気がした――。


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CIMG3979-1024x768●国道122号線、群馬側からカーブの多い峠道をひたすら進む

CIMG3918-1024x768●5月4日深夜0時過ぎ、城下トンネルに到着

CIMG3921-1024x768●大光量で照らすトンネル。周囲との明暗差が著しい、やはり事故防止の為なのか

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CIMG3935-1024x768●車を降り、徒歩で内部を探索してみる

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CIMG3949-1024x768●不気味なシミなどもなく、特に変わったところは見受けられない

CIMG3958-1024x768●トンネルを抜けると、先ほどとは一変して闇に沈んでいく。少し歩けば伝説の供養塔がみえてきた

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CIMG3964-1024x768●「交通事故・諸聖霊」と刻まれている

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CIMG3966-1024x768●村長が黒い影を目撃したトンネルから150m地点。深夜にもかかわらず車が頻繁に走り去っていく。ドライバー達の間では今でも目撃談はあるのだろうか。暖色の薄明りの中を歩きながらそんなことを考えていた

探索者より

アンビリバボーといえば、国民のほとんどが知っているであろう長寿番組。世界各国で起きている信じられないような出来事に焦点を当て紹介していく内容。
おそらく「霊界へ続くハイウェイ」の回を見た方も多いのではないでしょうか。私も当時この放送を見ていた一人です。
今では感動するような奇跡やら、衝撃的な犯罪・事件等を放送する番組となっていますが、90年代後半から01年頃までは、恐怖のアンビリバボーと題して、心霊ドキュメントをよく放送していました。お茶の間を戦慄させるクオリティの高い再現映像に現在でも再開を求める声は多いです。しかし、時代的にBPOに関することで難しいようですが。

幼少期のトラウマ、放送から18年、実際の事件からは33年も経ちます。
心霊スポットとして、頭のかたすみにいつもあった気になる場所の一つ。まさか三十路にもなって、実際に訪れるなんて思ってもみませんでしたが。
このサイトは嘘偽りなくありのままを記載するのがルール、新聞記事にある目撃証言を否定する根拠にはなりませんが、私は何も見ていなければ不可解な音が聞こえることもありませんでした。

結局なんだったのでしょうか…。しかし伝説の現場は2017年現在も残っているのです。
私がテレビでみたあの光景、自分の目で確かめることはとても感慨深いものがありました。

ただ、この場所を訪れることは推奨しません。
私がしたことは、車の走行が途切れる合間をぬって道路の中央に行き撮影する危険行為。絶対に真似はしてもらいたくありません。

引用・参考文献

上毛新聞 1985年(昭和60年)2月2日
讀賣新聞 縮刷版 1999年(平成11年)6月24日
フジテレビ[奇跡体験!アンビリバボー 霊界へ続くハイウェイ]

群馬県赤城山ポータルサイト(深沢城  特集・赤城山南麓の城跡)
http://akagi-yama.jp/archives/29328
国土交通省 関東地方整備局
http://www.ktr.mlit.go.jp/river/bousai/river_bousai00000006.html
国土交通省 利根川水系砂防事務所
http://www.ktr.mlit.go.jp/tonesui/tonesui00033.html

撮影協力:HB氏

丘出
ただの酔っぱらい。
怖がりなんですけれど不思議な体験がしてみたい。