座敷わらし伝説の宿「緑風荘」探訪記

2020/01/01

緑風荘

緑風荘は、岩手県二戸市、金田一温泉にある「座敷わらしに会える宿」として有名な温泉旅館。
座敷わらしがよく目撃されるのは奥座敷の「槐(えんじゅ)の間」で、その姿を見た者は大変な幸運に恵まれるという伝説が残されている。

※座敷童子(ざしきわらし)とは、北上山地を中心として信じられている旧家に住むとされる精霊である。
その容姿や伝承は日本各地で異なるが、年格好は5歳前後の子供であることが多いということ、そして最も代表的な逸話として、座敷童子のいる家は栄え、座敷童子の去った家は衰退するということが挙げられる。柳田国男「遠野物語」によって広く知られることになった。

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%e7%b7%91%e9%a2%a8%e8%8d%98%e3%81%88%e3%82%93%e3%81%98%e3%82%85(ザシキワラシの目撃が多い槐の間、全国からのお供えの品で溢れかえっている ※画像は緑風荘のファンドページより

亀麿

緑風荘における座敷わらしの伝承は、一般的に知られていることと少し異なる。名前は亀麿(かめまろ)と呼ばれ、二戸市のゆるキャラにも採用されている。公式サイトによればイワレは以下のようなものだ。

『およそ670年くらい前の南北朝時代、南朝の後醍醐天皇に使える 藤原朝臣藤房(万里小路藤房)が北の足利軍に追われ現在の東京都あきる野市に身を隠した。 その後さらに北上しその道中で二人の子供の内、当時6歳だった兄の亀麿が病で倒れその幼き生涯を閉じる。 その際「末代まで家を守り続ける」と言って息を引き取ったそうだ。その後、守り神<座敷わらし>として奥座敷の槐(えんじゅ)の間に現れるようになったと言い伝えられている。その姿を見たり、不思議な体験をした人は大変な幸運(男=出世 女=玉の輿)に恵まれるといわれている。』

%e4%ba%80%e9%ba%bf%e6%a7%98YOUTUBEよりキャプ、漫画家つのだじろう氏による亀麿のイラスト、目が瞬きをする怪奇現象が当時話題となった)

火災により焼失

2009年10月4日午後8時半頃、配電盤が出火の原因とされる火事が発生。築300年の母屋と新館を含め緑風荘は全焼する。宿泊客と従業員は全員無事だったが、旅館は営業停止を余儀なくされた。

%e7%b7%91%e9%a2%a8%e8%8d%98%e7%81%ab%e4%ba%8bYOUTUBEより、当時のニュース映像のキャプ)

これはザシキワラシが去ってしまった為に起きた火災なのではと心配されたが、2014年11月の東スポWebにて店主がこのように弁明している。

「実は母屋も新館もだいぶ土台が傷んでいたんです。改修しなければいけなかったけど、3年先まで予約が切れずに入っていたので、できなかった。火事は東日本大震災の1年半前ですが、あの地震がきたら倒壊して犠牲者が出ていたと考えられます。また直前は満室がずっと続き、働いている家族は休みが取れずにいつ倒れるかという状態でした。火事で犠牲者は1人もいませんでしたし、旅館だけが燃えて、すぐ隣の家には延焼しませんでした。後から考えると火事になったことで助けられたというか、守られたとさえ思います」

さらに、奇跡的にも亀麿を祀る「亀麿神社」だけは焼失を逃れ、そこへ着物姿の小僧が逃げこむのを見たとの目撃情報がある。

2014年7月、全国から営業再開を望む多くの声が寄せられていた同旅館の再建計画がまとまる。その費用として約3億円必要であり、自己資金と銀行からの融資等で大部分は補うも5200万円届かず、この分をファンドと寄付でご支援を募る。
2015年9月、資金が集まり、再建工事の着工がはじまる。
2016年5月14日、焼失から約6年半ぶりに営業を再開することに至った。

――はじめてザシキワラシという存在を知ったのは、幼少期に見た「まんが日本昔ばなし」だったと記憶している。
テレビにて拝見する度に、いつか自分も宿泊してみたいと胸躍らせ過ごしてきた。それゆえに同旅館焼失の一報を知ったときは大変驚愕したものだ。

あれから約6年、ネットにて営業再開のニュースを知った私は、あの頃に潰えた思いを叶えたいとすぐさま予約を試みた。
すると、オープンして間もない為か、当時は3年先まで予約が埋まっていた人気宿も平日には若干の空室が確認できた。
運よく休日と重なる日を予約することに成功し、2016年6月13日、念願だった岩手県二戸市、金田一温泉へひとり旅立った。「座敷わらし伝説の宿」の今、ありのままをご覧いただきたい。

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kamemaro15●緑風荘入り口

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kamemaro20●旅館外観

kamemaro21●玄関には亀麿様の可愛らしい木彫り台が

kamemaro22●入り口正面にある共有スペース

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kamemaro6●座敷わらしがよく目撃された「槐の間」。焼失前の室内が再現されている

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kamemaro24●床の間に鎮座している亀麿の木彫り像。焼失前の緑風荘の廃材を使用し、弘前市のねぶた絵師、八嶋龍仙氏によって彫られたもの。300年の歴史の重みを感じさせる

kamemaro29●旧「槐の間」にて撮影された有名なオーブ写真

kamemaro30●この扉から外出し、中庭にある「亀麿神社」へむかう

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kamemaro10●不思議と火の手から逃れた「亀麿神社」。亀麿様を撮らえようと夢中でシャッターを切る

kamemaro31●館内に戻り、客室へとむかう

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kamemaro33●テレビを消せば、喧騒ひとつ聞こえず静まりかえっている。悪霊ではなく宿の守り神が出ると言われてもすこし不気味である。例えるなら、子どものころ田舎のおばあちゃん家にて一人お留守番させられたようなあの感じか

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kamemaro34●翌日、さっそく設置しておいたカメラを確認してみる

放置したカメラのキャプ

放置カメラキャプ1

放置カメラキャプ2

放置カメラキャプ3●インターバルカメラは、連続撮影された画像をつなげ動画に加工できる。何度も繰り返し見てみたが、映っているのは画面右、寝相の悪い中年男性の布団がうごめく戦慄とした光景だけだった

探索者より

絶対に座敷わらしを目撃してやるという意気込みで臨んだ今回のひとり旅。
しかし、都市の喧騒から離れ、うまい酒と豪華な食事、さらに温泉まで。社会の荒波に揉まれて疲れきったおっさんはカメラを仕掛けたら爆睡し、気がつけばすぐに朝を迎えていたのです。
そして、仕掛けたカメラにはなにも映っていない。

どうしようもない結果に終わってしまいましたが、ザシキワラシについて興味深いこんな話があります。

『遠野にて昭和32年、Mという味噌醤油製造会社が倒産する寸前のこと。朝方の5時、この社長宅を出た二人の子供が、手を組んで石倉通りから中央通りを抜け、Iという建材店に入って行ったといいます。この子供たちの姿は、新聞や牛乳の配達人、豆腐屋の従業員たちがハッキリと目撃しているそうです。このため、当時人口三万の遠野は大騒ぎになりました。』
引用:菊池 照雄著『「遠野物語」を歩く―民話の舞台と背景』/講談社カルチャーブックス 1992.2 P35

今も絶える事がないザシキワラシに関する、奇怪な体験談や目撃情報の数々。私は間違いなくいると思っています。
日ごろから不気味な所ばかり行くので、宿泊してからは亀麿様のご加護があるような気がして心強いです。

興味をもたれた方はぜひ「緑風荘」に宿泊して、座敷わらしに思いを馳せる素敵な時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

<ご予約はこちらから>(2016年10月7日現在、予約は11月末まで満室)

引用・参考

柳田国男「遠野物語」(角川ソフィア文庫 2004)

「<口語訳>遠野物語 」(河出書房新社 1992)

菊池 照雄『「遠野物語」を歩く―民話の舞台と背景』(講談社カルチャーブックス 1992) P35

緑風荘WEBページ(亀麿神社について)
http://www.zashiki-warashi.co.jp/kamemaro.html

AERA(「座敷わらし旅館火災」現場から逃げる「着物姿の子」目撃情報)
http://www.fujisan.co.jp/yomimono/articles/1489ap-googlead?page=1

東スポWEB(全焼から5年「座敷わらしに会える宿」の今)
http://www.tokyo-sports.co.jp/entame/entertainment/335928/

河北新報(座敷わらしと再会?「緑風荘」再建へ)
www.kahoku.co.jp/tohokunews/201509/20150915_32045.html

河北新報(座敷わらしの宿「緑風荘」6年半ぶり営業再開)
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201605/20160515_23006.html

丘出
ただの酔っぱらい。
怖がりなんですけれど不思議な体験がしてみたい。